皆さん、和紙を普段使われますか?最近いつ使われましたか?「和紙はあまり使わない」という方が多いかと思います。
和紙の反対の言葉で「洋紙」という言葉があります。初めて聞いたという方もいらっしゃるかもしれません(お酒では「洋酒」という言葉は知っているけど「和酒は知らなかった」という方はいらっしゃったかもしれませんが)。
現在の私たちの生活の中で和紙より洋紙の方が頻繁に使われていますよね。「和紙は特別なもの」や「和紙は何に使えばいいのかわからない」という方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか?しかしそんな「手漉き和紙の技」術が2014年ユネスコの世界無形文化遺産に登録されたのは皆さんもご存じかと思います。
今回はこのような「和紙」と「洋紙」についての雑学です。「和紙と洋紙の起源や歴史」から始まり、「原材料の違い」「製造方法」、「特徴や用途」をまとめました。ご覧ください。
紙の歴史
和紙・中国大陸から入ってきた技術が元
ひな祭りなどの節句にしろ、煎餅やあられにしろ、「古くから日本伝わる文化」といえば中国大陸から伝わってきたものが多いですよね。和紙も中国大陸から伝わった技術を元に、改良されてできました。
中国で和紙の原形となる紙を考え出されたのは紀元前2世紀ごろです。当時の役人蔡倫(さいりん)が考え出したと言われています。この紙は放馬灘紙(ほうばたんし)と言われ、原料は樹皮・麻布・魚網などだったようです。
そして日本には「西暦610年に高句麗の僧侶、曇徴(どんちょう)がやってきた時に技術が伝えられた」との記述が日本書紀にあります(諸説ありますが、卑弥呼の時代にすでに日本に紙は入ってきていたともいわれています)。
その後、伝えられた技術にから日本独自の材料や製造方法へと改良され、現在に伝わる和紙へと変わっていきました。
洋紙も中国が起源??
世界的な紙の歴史
ここからは世界的な紙の歴史についてご紹介します。中学校の世界史の授業にも出てきますが、紀元前3000年ごろに始まった古代エジプト文明ではパピルス紙といわれるものが作らました。英語の「paper」の語源になったことはみなさんご存知でしょう。パピルス紙は10世紀ごろまで使われていました。
また小アジア(アナトリア半島・現在のトルコ)のあたりでは、紀元前2世紀~17世紀まで「羊皮紙」というものが使われていました。これは「紙」と付くものの実際は羊の皮のことです。イメージとしては海賊が持っている「宝の地図」のような感じのものです。
洋紙の起源
パピルス紙や羊皮紙があったものの、現在の洋紙の元となったのはなんと和紙と同じ放馬灘紙です。中国からシルクロードを渡り、8世紀にマゼラン帝国に、10世紀にはエジプトのカイロに伝わり、パピルスに変わって西洋各地へと広まりました。当時中国では大麻や苧麻(ちょま)などを使って作られていましたが西洋では亜麻(あま)を原料にしていました。
日本にはいつ?
日本に洋紙が入り、生産が始まったのは明治時代に入ってからといわれています。手漉(す)きの和紙に変わり、大量生産ができるようになり徐々に紙が庶民にとっても身近なものへと変わっていきました。
原材料の違い
ここからは和紙と洋紙の原料をご紹介します。
和紙の原料
最初に和紙の代表的な原料を4つご紹介します。
麻
麻から作られる紙を「麻紙(まし)」と呼びます。麻は古くから使われており、正倉院には多くの麻を原料とした書物が保管されています。
楮(こうぞ)
こちらも古くから紙の原料として使われています。「こうぞ」という言葉は「紙麻(かみそ)」が変化して呼ばれるようになったといわれています。
ミツマタ
中国原産の植物です。徳川家康は静岡県の伊豆地域でこのミツマタを使って和紙を作るように言ったという話もあります。
ガンピ
遣唐使とともに唐にわたった最澄が土産に雁皮(がんぴ)で作られた紙を持ち帰ってきたという話も残っています。樹皮が使われ、雁皮紙と言います。
洋紙の原料
和紙は使われる植物の種類が決まっていますが、洋紙には「この植物を使う」などといったような原材料の品種は決まっていません。植物由来の繊維が使われている点は和紙と同じです。
例えば木であっても広葉樹・針葉樹ともに使われますし、竹やサトウキビなどの繊維も使われます。さらに再生紙があるように古紙も原料として使えます。
ちょっとブレイク~トイレットペーパー
「毎度お騒がせしています、ちり紙交換車です」と言って古紙回収業者のトラックが住宅地を回っていたことを知っている方は現在では少なくなってしまったのではないしょうか?昭和の時代、古紙回収業者が上のような言葉をスピーカーで流しながらトラックで住宅地を回っていました。
ちり紙交換車は新聞紙や段ボールなどの古紙とトイレットペーパーなどと交換してくれました。ちなみにトイレットペーパー1個は牛乳パック6個でできます。
トイレットペーパーと言えば私は小学校の頃の担任を思いだします。この先生が大学時代に寮住いをしていたのですが、その寮のトイレにこんな言葉が書いてあったといいます。
「『カミ(神・紙)』に見放されたら自らの手で『ウン(運・うんこ)』を掴め」と(爆笑)。失礼しました。
製造方法の違い
ここからは和紙、洋紙の製造方法についてご紹介します。
和紙の製造法
和紙の製造法を今回は楮を使った和紙の作り方を例にご紹介します。
①楮の木を蒸す
楮の皮をむきやすくするために木を大きな窯で3時間ほど蒸します。
②皮を剥きとる
①で蒸した楮の木の皮を温かいうちに1本1本手ではぎ取っていきます。この剥きとった皮が和紙に使われます。
③黒皮を取り除く
②で剥き取った皮に付いてしまっている黒皮をそぶり包丁で取り除きます。そして白皮にします。
④白皮の天日干し
白皮を天日干しして乾燥させます。乾燥させることで紙すきをするとまで保管できます。
⑤水で戻す
乾燥させ、保存していた白皮を水で戻し、柔らかくします。
乾燥させて保存、使う時に水で戻す。まるで(切り干し大根などの)乾物みたいですね。
⑥白皮を煮る
水で戻した白皮を、熱湯に苛性ソーダ(NaOH)を加えて煮ます。苛性ソーダを加えることで、繊維の純度を高めることができます。
⑦漂白
水槽であく抜きをしてから、完成する和紙が白くなるように漂白します。
⑧ゴミを取る
楮に含まれる細かなゴミや不純物を取り除きます。
⑨白皮を叩き砕く
白皮の繊維を細かくするために機械を使って砕きます。
⑩紙漉(す)きの準備
水を張った「漉舟」という水槽に⑨で砕いた白皮、ネリを加え良くかき混ぜます。ネリとはトロロアオイの根っこをすりつぶした時に出てくるネバネバした液体のことです。漉舟中の液体に粘り気をつけます。
⑪紙漉き
いよいよ紙漉きです。漉簀(すきす・紙漉きに使うすのこ)をのせた台(「漉桁」・すきけた)で漉舟の液をすくい、前後させ、戻す作業を繰り返します。
⑫水分を絞る
紙を漉き終えたら、漉簀から外し、紙床に重ねます。100枚ほど漉き、重ねたらプレス機でプレスして水分を搾り取ります。
⑬乾かす
プレスして水分を絞った和紙を最後に乾かす工程です。刷毛(はけ)などを使って1枚1枚板に張り付けたり、乾燥機をつかったりして乾かして完成です。
洋紙の製造法
和紙は楮を原料とした作り方を例に紹介しました。洋紙は木材を原料とした作られ方を例にご紹介します。
①パルプを取り出す
機械で木材をすりつぶしたり、高温高圧の釜で煮たりしてパルプを取り出します。
②フィブリル化
次に機械を使いパルプの繊維を毛羽立たせます。これをフィブリル化と言います。毛羽立たせることで繊維同士が絡みやすくなります。
③抄紙(しょうし)
紙漉きの工程です。プラスチック製の網の上に液状のパルプを均一に広げます。そしてシートを作ります
④プレス
③でできたシートをフェルトに乗せ、プレスロールに挟んで水分を取り除きます。
⑤乾燥
④で水分をとった紙を蒸気で加熱された鉄製の筒に押し付けながら乾燥させます。
⑥表面処理
最後に表面を滑らかにする工程です。鉄製のロールの間を通し、圧力をかけます。
特徴と使用用途
最後に和紙と洋紙の特徴や使用用途についてご紹介します。
和紙の特徴
和紙はそれぞれ原材料の長い繊維を絡め合わせたものです。
薄くて丈夫
和紙は洋紙と比べて繊維が長いので丈夫です。
原料が限られている
原料が限られているため大量生産できません。また価格も高くなってしまいます。
通気性、透光性がある
実は顕微鏡で見ると和紙には細かな穴が開いています。植物の繊維が絡み合っているだけだからです。だから空気を通しますし、光も通します。
濡れると湿度で伸び、乾くと縮むる
障子を貼る時、霧吹きで障子紙を湿らせたり、また雨の日などに行ったりした方がいいと言われます。これは湿度で伸びた和紙が乾くと縮み、たるみがピシッと張るからです。
折り畳みに強い
何回も同じところで折りたたみを繰り返してもなかなか破れません。だから屏風(びょうぶ)の蝶番(ちょうつがい)にも和紙が使われています。
本の修復
また破れたり穴が開いたりした本の修復にも使われます。手で和紙を破り、でんぷん糊で貼ります。手で破ることで和紙の繊維が毛羽立ち、うまく本に絡み合うのです。
洋紙
和紙は長い繊維を絡めたものとお伝えしましたが、洋紙は繊維を敷き詰めた紙です。
価格が安い
材料の木材に制限がなく、また古紙などもリサイクルができます。だから和紙と比べて安価です。
簡単に破れる
線維が短いため簡単に破れてしまいます。短所でもあり長所でもあります。折り目を付けて綺麗に破ることも可能です。
最後に
今回は和紙と洋紙の違いについてご紹介しました。同じ放馬灘紙が元となったのは驚きだったかと思います。
洋紙と和紙に違いが表れた理由には、日本の墨汁を使った筆の文化が関係しているとも言われます。また、洋紙は「印刷」をするための紙として発達・改良されてきました。印刷機で和紙に印刷しようとしてもうまく印刷できないのと同じで、洋紙を使っての習字もうまくいきません。
また、選挙の時の投票用紙は和紙でも洋紙でもない、プラスチック用紙(ポリプロピレン樹脂)です。開票時に折り畳んだ投票用紙が箱の中で開くように作られました。紙を広げる手間が省けるそうです。
皆さんもいろんな用途に合わせて和紙と洋紙使い分けてみてください。