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万葉集の有名な歌10選!万葉の時代の名歌を現代語訳と併せて紹介!

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元号「令和」の引用元となったことで一時よく耳にしていた万葉集。7~8世紀にかけて編さんされた歌集です。収められた歌は実に4500首に及びます。この記事では、万葉集の中でも有名な歌を10首選びました。現代語訳と簡単な紹介をつけています。この記事を読むと、当時の人々の暮らしぶりや考え方に触れられます。

万葉集は奈良時代末期に完成したので、収められている歌は奈良時代のものが多いです。また、詠み手は天皇から平民に至るまで幅広く収められています。中でも有名な歌は高名な歌人や高貴な人々のものが大半です。紹介した歌以外にも面白い歌が多く収められています。

原文を読み解くのは難しいので、現代語訳のついた書籍などで読んでみることをおすすめします。

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る

額田王(ぬかたのおおきみ)
「紫草の生えた野を行き、御料地を行きながら見張りが見やしないか、いや、見てしまうでしょう。あなたが私に袖を振るのを。」

額田王が、宴会で同席していた元夫の大海人皇子に冗談で宛てた歌です。袖を振るというのは、愛情を表す仕草です。元夫が自分にまだ気があるように冷やかしています。昔の人の冗談のセンスに驚かされます。

はち

見ずやは反語といって、断定を強調するため言いたいことの反対の内容を疑問形で言っています。

紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも

天武天皇(てんむてんのう)
「紫草のように美しいあなたのことが嫌だと思うなら、なぜ人妻なのに恋い慕いましょうか、いや、恋い慕ったりはしません。」

この歌は天武天皇の歌として収められています。天武天皇とは大海人皇子のことです。前出の額田王の歌に対してこの歌で返しました。この歌の真意は「あなたのことは嫌ではないから恋い慕います」です。もちろんこの歌も冗談で詠まれました。

はち

額田王と大海人皇子の気兼ねないやり取りが面白いですね。

田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける

山部赤人(やまべのあかひと)
「田子の浦に出かけて眺めると、真っ白な富士山の高い嶺が見え、雪が降り積もっている。」

この歌は、情景を客観的に表現しています。作者である山部赤人の主観は一切入っていません。客観的な表現に徹することで、富士山の雄大さが美しく表現されています。

はち

田子の浦から眺める景色はさぞ綺麗だったのでしょう。

我が背子を大和へ遣るとさ夜更けて暁露に我れ立ち濡れし

大伯皇女(おおくのひめみこ)
「わたしの弟を大和に見送り、夜がふけ、わたしはずっと立ちつづけ明け方の露に濡れるました。」

大伯皇女が弟の大津皇子(おおつのみこ)のことを詠んだ歌です。大伯皇女は、政争に巻き込まれ命が危ぶまれる中で会いに来た弟を、力なくむざむざ大和へと見送ったのです。その後、大津皇子は謀反人として処刑されてしまいました。

はち

悲しみの中立ち尽くした大伯皇女が、自らの心情を情景に落とし込んだ歌です。

磯城島の大和の国に人二人ありとし思はば何か嘆かむ

作者不明
「この大和の国に、私のいとしい人が二人もいると思うのだったら、何を嘆くことがありましよう。私のいとしい人はたった一人しかいないから嘆いているのです。」

この歌の面白いところは、人二人という表現の巧みさです。もし恋する人が二人いれば気が楽なのに、一人しかいないから悲しんでいると表現し、愛情の強さ、悲しみの強さを伝えています。

はち

いとしい人が2人いれば、遠く離れていてももう一人のあなたがいるから大丈夫、という儚い希望ですね。

あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳に雲立ち渡る

柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)
「山から流れ落ちてくる川の瀬の音が高くなりひびくにつれて、弓月嶽(ゆつぎがたけ)には一面に雲が立ち渡ってゆく」

柿本人麻呂が、川音と弓月嶽(奈良県桜井市)に雲がかかっていく様子を写実的に詠んだ歌です。当時の情景がありありと思い浮かびます。

はち

柿本人麻呂は名歌を数多く詠んでいて歌聖と呼ばれる人物です。

わたつみの豊旗雲に入り日差し今夜の月夜清く照りこそ

天智天皇(てんじてんのう)
「大海原の豊旗雲に、入日を見た。今夜の月は、清く明るくあってほしい。」

天智天皇(当時は中大兄皇子)が、新羅(しらぎ、現在の朝鮮半島にあった国)遠征の際に詠んだ歌と言われています。船上から雲に夕日が差すのを見た様子と、夜は清々しく明るい月あかりを待っている心が表現豊かに読まれた歌です。

はち

戦地へ向かう中で詠まれた歌ですが、とても落ち着いた雄大な歌です。

春過ぎて夏来るらし白栲の衣干したり天の香具山

持統天皇(じとうてんのう)
「春が終わり、夏がやって来たらしい。白い衣が干してある天の香具山よ。」

香具山に白い衣を干すのは当時の夏の風習でした。その光景を見て夏が来たのだと感じ取る美しい歌です。

はち

この歌は少し言い回しを変えて、百人一首にも収められています。

百人一首の人気の歌を紹介した記事はこちらです。

百人一首の好きな歌はありますか?人気の和歌を好きな理由と共に紹介!

験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし

大伴旅人(おおとものたびと)
「考えても仕方のない物思いはせず、一杯の濁り酒を飲むとよいらしい。」

この歌は、どうしようもない悩みにとらわれるくらいなら、酒でも飲んで気楽でいた方がよいという、自由を肯定する歌です。酒はマイナスな印象もありますが、気晴らしになることもあります。

はち

とはいえ、飲みすぎには注意しなければいけませんね。

あをによし奈良の都は咲く花のにほふがごとく今盛りなり

小野老(おののおゆ)
青丹も美しい奈良の都は、咲きさかる花が輝くように、今が盛りである。

奈良の都が反映し、最盛期を迎えているという喜びを歌っています。青丹よしとは、青(当時の緑色)と丹(当時の朱色)が美しいという意味です。平城京は建築物に朱色と緑色が映える都でした。

はち

小野老は、当時大宰府にいて、遠く離れた都を想って読んだ歌です。

さいごに

この記事で紹介した万葉集は、ただの歌集にとどまらず、奈良時代の人々の思想や暮らしぶりが分かる貴重な文献でもあります。古文となると難しく感じるかもしれませんが、日本語訳がついていれば、読みやすいです。有名な歌をひとしきり味わった後は、お気に入りの歌を探してみてはいかがでしょうか?

万葉集を通じて、和歌が伝える当時の日本の暮らしに思いを馳せてみませんか?

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はち
趣味は音楽鑑賞、新聞に掲載されているパズルを解くこと。身近なものから専門的な雑学まで幅広く執筆。